叶わなかったクリスマスツリーの夢
「USJのクリスマスツリーを一緒に見に行こう」
20代前半という男女は、手を取り合ってそう誓い合ったといいます。男性は出版社に勤める社会人2年目。作家への原稿依頼や編集作業、先輩社員の手伝い、雑用の仕事に振り回され、毎日終電帰りの日々を過ごしていたそうです。休日も溜まった仕事や自分が取り組みたいテーマの記事の執筆に費やすなど仕事漬けの毎日。彼女は当然おらず、充実した社会人生活に満足しつつも、時折ラブラブなカップルを目にするとふと込み上げる寂しさがあったといいます。
そんな時、11月に先輩社員と「ちょっと早めの忘年会」でたまたま訪れた「裏難波」(なんばの東側)。外れにあるスナックで、乾いた心に潤いをもたらしてくれるような女性との出会いが起こります。
40代の母親と12畳ほどの店を切り盛りする女性の名前はユイ。20代前半といい、韓流女優を思わせる整った顔立ちとエキゾチックな雰囲気ですが、しゃべりはコテコテの関西弁でお笑い系。その場にいるだけで空気がパッと明るくなるような存在感に、男性は暗闇だった心に灯りを灯された気がして、言い様のない温もりを感じました。
ユイは、男性の隣りに座り、「仕事頑張ってて真面目なんだ。そんな誠実で正直な人が彼氏だったらなぁ」と、微笑みかけたといいます。至福の時間は瞬く間に過ぎ、ユイは帰り際、この男性にだけ連絡先を教え、その後、2人は頻繁に連絡を取るようになります。仕事が忙しいというユイのために、男性は週に1度は裏難波の店へ。店で男性は「人の心に残るような紙面を作りたい」という夢を語り、ユイも応援してくれたといいます。
そして12月中旬を迎えた頃、男性はユイに心に抱き始めた思いを伝えます。「クリスマスツリーを一緒に見に行こう」と。ユイは少し考え込むような表情を浮かべた後、笑顔で深く頷き、男性は初デート当日のことを思うと心が踊ったそうです。
クリスマスデートはユイの店の定休日の12月24日18時。男性は1週間前から徹夜で仕事を終わらせ、24日のデートの時間までに退勤できるよう計画。奮発して購入したバーバリーのジャケットに袖を通して待ち合わせ場所のなんば駅前に30分前には駆け付けたのですが…
約束の時間を10分、30分、1時間過ぎてもユイは現れず。男性からの「どうかしたの、大丈夫?」とのメッセージにユイから「ごめんなさい、行けなくなった」と返信が。男性は「1時間も寒空の下待たせておいて。でも、何か事情があったのだろうか」と思いつつ、御堂筋のイルミネーションを眺めながら帰路についたそうです。
街に溢れるカップルの中をひとり歩きながら。どこからともなく流れてくる山下達郎さんの『クリスマス・イブ』の「きっと君は来ない♪」の歌詞に自分の状況を重ねて…
クリスマスイブにひとり。そんな寂しい思いは誰もしたくないはずなのに、それが起きてしまう。クリスマスイブを孤独に過ごす人々がいる限り、『クリスマス・イブ』は人々の心を打ち続けるでしょう。聖なる夜にすれ違う、もしくは合致する男女の思いと思惑。今年も街では、そんなすれ違ってしまった人々の心の声を代弁するかのように『クリスマス・イブ』が流れています。
(記事:スタッフ)